DATE 2009. 2.18〜2009. 5.31 FF4TA企画 NO .



「ここも危ない!」
「リディア、早く!!」

 少し遠ざかったかと思えた崩壊の足音がまた、すぐそこまで迫って来ていた。

「えぇ! ――さぁ、行こう?」

「……了解した」

 そんな周囲の様子など全く関係ないかのように、少女はただリディアを見上げる。
 その硝子の様な瞳には、確かに崩壊の様が映り込んでいるはずなのだけれど。


『――行こう?』

『……』

 砂漠を、洞窟を。
 黙々と進み続けたあの日の光景が、唐突にセシルの脳裏をよぎる。

 家々を呑み込み、それでもまだ足りないと言わんばかりに炎が暴れ回っている中。
 そんな周囲の様子など全く関係ないかのように、少女はただセシルを見上げていた。
 その小さな瞳には、確かに崩壊の様が映り込んでいたはずなのだけれど。
 たったひとつの言葉が、少女の思考から村の存在を消し去った――

「――!」

 瓦礫の降り注ぐ音が、一段と近くなった。

「皆、走れぇっ!!」

 言わずともわかる事だというのに、セシルは叫ばずにはいられなかった。

 前を走る面々は、道を切り拓く。
 自分達は、その時間を稼ぐ。
 必ず帰る――その想いだけで、疲れきった身体を叱咤して走り続けていたのだから。

 すぐ前には、少女の手を引いて走るリディアがいた。
 怯えるでもなく息を切らせるでもなく、少女の足は相変わらず機械的に動き続けている。

 その時、下から突き上げるような振動が走った。

「あ…っ!」

 リディアが大きくバランスを崩す――

「お…っと」

 リディアが倒れ込むよりもセシルが手を伸ばすよりも早く、セシルの視界に赤が翻った。

「何やってんだ、無茶はほどほどにしておけよ」

 リディアを助け起こしたエッジは、走る勢いを殺さぬまま少女の手を引き取り、背負う。

「一人じゃねーんだ、もっと周りを頼れ!」

「な…っ、エッジにだけは言われたくありませんよーだ!」

「あー、それもそうだ…な!」

 後ろ姿の二人の表情を知る事は出来ないものの、セシルにはわかる気がした。
 降ってきた瓦礫をかわし、エッジがリディアに何か耳打ちする。

「――約束だからね!!」

 たったひとつの言葉が、彼女の足取りを確かなものにしたらしい。
 シリンダーに亀裂が走り、やがて甲高い音をたてても。
 リディアは振り返る事なく、扉の向こうへと消えた。



 少しスピードを落として、エッジがセシルに並ぶ。

「ゲッコウ達を先行させた。全員辿り着いたらすぐに出発出来るようにしとけってな」

「わかった――で、道の方は?」

「今のところは問題ない。あいつの前を走っている限りは、大丈夫だ」

 既に視界に入るところまで迫った「あいつ」を前に、セシルは再び剣を抜く。

「それを聞いて安心した。だがいつまでもそうはいかないだろう……こっちは私達が何とかする」

「あぁ、前は俺達に任せとけ!」

 少女を背負い直して走り去ったエッジの姿は追わずに、セシルは足を止めて剣を構えた。

「セオドア、ローザ、カイン、兄さん!」

 創造主を名乗る相手を前に、
 傍にいる存在を、強く強く、意識する。


『歴史は繰り返す――かもな』


 エッジの言葉を信じてみるなら。
 大きな敵の次に待つのは、皆の笑顔。

「必ず生きて帰るぞ!!」







≪あとがき≫
 セシルが最後に呼ぶ面々に関しては、漫画に例えるなら脚だけ出演なイメージです。口元とかではなく、脚。
 最後の最後で靴音が響き出す雰囲気ってのが目標…だった…orz
 緊迫感って何だろ……

 その内エジリディサイドも書けたらなー、と。
 ……その内。





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